核移行シグナル

真核細胞は核と細胞質からなっている。核の中で機能するタンパク質は(((リボソーム)))において合成され、合成の場である細胞質から核膜孔を通過して核の中に移動する。分子量40~50kd程度までのタンパク質は、(((拡散)))によって細胞質と核との間を移動することができるが60kd程度を越えるタンパク質の場合は、(((能動輸送)))によって核内に輸送される。では核内に局在する必要のあるタンパク質は、どのような機構で核に移行することが決定されるのだろうか。
補充問題
kdとは、何の単位か?
(((分子量の単位で「キロ・ダルトン」と読む。40kdは40×1000=4万ダルトン)))
SV40というウイルスゲノムには、T抗原という94kdのタンパク質がコードされている。ウイルスが細胞に感染するとゲノム情報に基づいて合成されたT抗原は核に移行する。T抗原が核に存在することがSV40の増殖に必須の役割を果たしている。
T抗原の128番目のリシンがアスパラギンやトレオニンに置換された変異ウイルスでは、T抗原は核に存在しないで細胞膜に残ることが判明した。T抗原が核に移行する条件を調べるために実験を行い以下の結果を得た。
(1)T抗原のN末端側から126番目までのアミノ酸を除いたタンパク質は核に移行した。
(2)T抗原の136番目移行C末端までのアミノ酸を除いたタンパク質は核に移行した。
(3)T抗原の127番目から132番目のアミノ酸を除いたタンパク質は核に移行せず細胞質に残った。
以上の条件から、T抗原に存在するあるアミノ酸配列が核への移行に必要であることが判明した。これを核移行シグナルという。そして③核移行シグナルを持つタンパク質は核に移行することも確認された。
問5下線部①に関してヒトにおいて核を有さずに機能している細胞を2つあげよ。
(((赤血球と血小板)))
赤血球は、(((赤芽球)))から成熟する過程で(((脱核)))して核を失い赤血球となる。
血小板は、(((巨核球)))の細胞質が(((ちぎれて)))できた細胞である。
問6下線部②の例を3つ挙げよ。
(((DNAポリメラーゼ)))
(((RNAポリメラーゼ)))
(((転写因子)))、(((ヒストン)))、(((ラミン)))
問7下線部③を証明するためには、どのような実験を行えばよいか。
(((細胞質に局在することが判明しているタンパク質の末端に核移行シグナルを付与する。そしてこの合成タンパク質が核に移行することを確認する。)))
問8粗面小胞体に輸送されるタンパク質ではシグナルペプチドは輸送後に切断される。しかし核に局在するタンパク質では核移行シグナルは輸送後も切断されない。核移行シグナルが切断されないことには、どのような意義があるか。
(((細胞分裂の際に核は崩壊する。核タンパク質が核移行シグナルを失っていると、分裂後に核に局在することができない。核移行シグナルは切断されないので、核タンパク質は細胞分裂後に核に再び移行することができる。)))
核は、細胞分裂時になくなってしまう。核移行シグナルがないと次の核合成時に核に戻れなくなるために核移行シグナルは切断されずにある。